千葉大学の広報ページで衝撃的なニュースを見つけた。大学グローバル化の一環としてスーパーグローバル茶室を作ったと言うのだ。
曰く、米国生物系博士課程の院生のうち将来テニュアトラックに乗るのは8%未満 / “Where Will a Biology PhD Take You?” http://t.co/29GYs1sFOW
— オガジ (@pago_j) April 20, 2014
アメリカで博士を取得した人の進路状況を図にした記事が話題になっている。
博士号を取るのに平均7年かかり、その過程で37%がドロップアウトするそうだ。実に厳しい。「アメリカと違って、日本の博士なんてコピペ論文で取れるんでしょ(笑)」現実はそんなに甘くない。オーバードクター(博士課程での留年)は自分の周りを見ても多い。彼らの能力が足りないわけでは決してない。ただ、博士論文は世界で初めて出されたデータを元に書かれなくてはいけないのだ。いくら能力があったとしても期待通りにデータが出ないことはあるし、運がなくて同じ内容が先に発表されてしまうこともある。そんな自分ではどうしようも出来ない問題に悩まされた人は、コピペ博士論文問題を見てモヤモヤしているだろう。
では苦労して博士を取ったら生活が保証されるのだろうか?件の図を見ると約70%がポスドク(ポストドクター;博士研究員)になる。ポスドクの給料は低くないが決して高くはない。参考までにMIT(マサチューセッツ工科大学)で博士号をとった人の給与平均を出す。ご覧のようにポスドクの給料は異常に安い。学士卒より下がるとは驚いた。
MIT卒業後の平均年収
学士:730万円
修士:850~950万円
博士:1080万円
博士(ポスドク):580万円
(MIT Facts 2014: Alumniを元に$=100円で概算したもの)
「別にポスドクの給料って悪く無いじゃん!むしろ自分よりいい」と思われた人もいるだろうが、これは理系で世界最高峰に位置するMITの例だ。MITでこれなら、あとは推して知るべしだろう。ちなみにポスドクは常勤ではなく2~3年の任期制だ。(「ポスドク問題」について考える – Yuichiro Anzai’s Official Blog)。
では何故こんなリスクを取ってまで、アカデミックな世界を目指す人がいるのか。それは「研究が楽しいから」の一言に尽きる。理解されなくても仕方ないけど、新しい現象を見つけることは本当に楽しいのだ。「自分の研究室を持ち、自然科学の真理にとことん迫ることができたら…」このような夢を抱き、日々実験に邁進する研究者は多い。
大学院に在籍していてもそう思う。この記事にあるように、別に大学院を出たからって、就職が約束されるなんてまったく思っていない。そんなことは、なんとなくわかっている。
でも、先行きが不透明の中、みんなが勉強に没頭している姿は、私がライブハウスで死ぬほど見てきた、バンドマンの姿にかぶるのだ。若い人たちが、先が見えない中、日々研究に打ち込んでいる姿はまさに若さを燃やしているバンドマンそっくりだったり。
(大学院というバンドマンみたいな奴だらけのロックな世界 高学歴ワーキングプア問題を別の角度から見てみる)
みんながみんなポスドクになってまで研究を続ける必要はない。博士号を取った後のキャリアパスは人によって様々だ。これまでの研究を活かした職につく人は多い。科学関係のコンサルタントになる人もいるし、起業する人もいる。文系職につく人も、ライターになる人だっている。研究をやめた後に漁師になった例もある。
「金沢大学大学院博士後期課程で29歳になるまでプラズマの研究をしていました。その当時までは、将来は大学か企業での研究職を目指していましたね。」 / “新人漁師から一言 | 石川県で漁業をしませんか?” http://t.co/Vh5hG6yZqz
— ぱんつ (@Fm7) 2014, 2月 9
自分はまだ研究を続けるつもりだけど、生活するために研究の世界から足を洗うことを決める日が、いつか来るのかな。
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自然科学研究の目的は、一般的に「自然に存在する真理を明らかにすること」です。
真理を解明するために科学者はあの手この手を使って実験を行いますが、僕はこのステップは「TVでよくやってる箱の中身当てゲーム」に似ているな、と思っています。