人工的な大腸菌ゲノムの全合成

Natureに以下のような内容の論文が出ていました。

【合成生物学】大腸菌の遺伝コードを圧縮する | Nature | Nature Research

合成生物学についてあまり良く知らないので勉強がてら論文を読みました。せっかくなのでブログを書きます。

 

 

合成生物学とは何か

合成生物学とは生命を人工的に作ることを目的にした研究分野である。勿論、ヒトが一から完全な生命を合成することはまだ出来ていない。しかし生命の設計図であるゲノムは、微生物程度の単純なものならば既に作れる時代になっている。合成生物学について簡単に知りたい人には、新聞記者の視点からゲノム研究を読み解いた”合成生物学の衝撃”が凄くオススメである。

 

この論文で出来たこと、分かったこと

4Mbpの人工的な大腸菌ゲノムの全合成、それがの論文で出来た一番凄いところだと思う。これまでの世界最高が約1Mbpなので、記録を4倍ほど更新したわけだ。生命を綴る文字が400万字繋げられたと思ってもらえればいいだろうか。

さて、どのようにして4Mbpもの人工ゲノムを作ったのだろうか。実際にはゲノム編集で大腸菌ゲノムを部分的に繋ぎ変えていくことで作られている。テンプレートは以前に樹立した天然のゲノムよりも15%ほど短い4-Mb E. coli MDS42 (Science, 2006) 、つなぎ替えていく塩基の長さはそれぞれ約100kbpだ。 文字にすると大したことがないように思えるが、恐ろしいスケール感である。

 

設計は上の図のように、まず4Mbpの全長ゲノムを約0.5Mbpずつ8つに分け (A-H)、次にそれぞれさらに4-5のフラグメントに分割して計37フラグメントにした。実際の置き換えは、既に確立されたREXER法 (Replicon EXcision for Enhanced genome engineering through programmed Recombination) により行う。CRISPR/Cas9を使った段階的な置換だ (Nature ハイライト:REXERを使ったコドンの置換)。

REXERを繰り返すことで全ゲノムを置き換えることをGENESIS (GENomE Stepwise Interchange Synthesis)と言うらしい。

 

さて、人工的にゲノムを作ることで実験的に生命の謎に迫れる。この論文では「地球上の生命は1つのアミノ酸を指定するのに重複したコードを持つ。この重複を無くしたらどうなるの」と言う問いを立てた。結果として、増殖にかる時間が約1.6倍になり、細胞が少し長くなったが、全タンパク量は大きく変わらなかったらしい (Extended Fig. 10)。この辺の議論は専門的になってしまうので省略する。

 

終わりに

合成生物学はもの凄い速度で進んでいる。今回の論文で達成した4Mbpは、酵母全ゲノムの3分の1に当たるので、数年後には完全な人工ゲノムを持つ真核生物が出来るのではないかと思ってしまう。実際0.99Mbpを人工的に置き換えた酵母は既に存在する。

ゲノムプロジェクトから数十年でDNAシークエンスがこうも簡便になったことを考えると、2030年代には普通の研究室でも簡単に人工ゲノムを作れる時代が来るのだろうか、と考えてしまう。

 

PS. Science CRISP bioさんが同じ論文について書かれていました。合わせて読むと理解が深まるかも。

・大腸菌全ゲノムを合成DNAで書き換え、遺伝暗号を61種類へと圧縮 : crisp_bio

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