知られざるイントロンの機能〜飢餓時に細胞の生存を助ける〜

遺伝子の中に存在するイントロンは、タンパク質には翻訳されずに除去される配列です。またイントロンが存在することでゲノムの複製に余計に時間がかかるため細胞の生存には有利でないとする説があります。

しかし最新の研究で、飢餓状態ではイントロンがエネルギーの節約を抑えることが明らかにされました。イントロンは単なるジャンク配列ではなく、これまで考えられていなかった機能を持っていそうです。

・Intron RNA sequences help yeast cells to survive starvation (Nature, 2019)

2つの独立したグループから同じ結論の論文がNatureに出ていましたので、それらについて簡単にまとめて書きます。

 

 

エクソンとイントロン

遺伝子はその配列全てが生命の設計図として機能するわけではありません。その中にタンパク質に翻訳される配列と除去されてしまう配列の2つが存在します。前者をエクソン、後者をイントロンと言います。

・遺伝子の中の厄介者,イントロンはどうしてなくならないか

イントロンはタンパク質には翻訳されないため、それ自身は意味のないジャンク配列だと考えられていました。しかし近年では、遺伝子の発現抑制に関わるmicro RNAがイントロンの中に存在していることも分かってきています(生化学 2015)。

イントロンが持つ機能的な意義を明らかにするため、研究グループは10年をかけて295つのイントロンを1つずつ欠損した出芽酵母の変異体ライブラリーを作り出しました(!)。そして、それらにどのような表現系が出るかを検証しました。

 

除去されずmRNAに残るイントロンが細胞増殖を調節する

イントロン欠損株は、高栄養の環境では大きな変化が見られないものの、低栄養状態では細胞の増殖が抑制されました。また、この表現系は欠失イントロンが含まれるホスト遺伝子の発現とは無関係でした。

・Introns are mediators of cell response to starvation (Nature, 2019)

この表現型は64%のイントロン欠損株で見られたことから、イントロンの一般的な役割だと考えられます。筆者らは、栄養が枯渇するとイントロンがmRNAから切り出されずに蓄積し、それが5’UTR依存的にリボソームを抑制すると考えています。

 

mRNAから除去された直鎖状イントロンも細胞増殖を調節する

別の研究グループはRNAシークエンス解析により、増殖期の出芽酵母では切り出されたイントロンがすぐに分解されてしまうものの、飢餓状態では安定的な直鎖状のイントロンとして存在すると言うことを発見しました。また、これらのイントロンを欠損した株は飢餓状態で生存できないという、前述の論文と同様の表現系を見つけました。この直鎖状イントロンの分解は、栄養シグナルの主役であるTORC1を阻害することで抑制されました。

・Excised linear introns regulate growth in yeast (Nature, 2019)

この論文も、飢餓状態ではイントロンがリボソームタンパク質遺伝子のスプライシングや翻訳を抑制することでエネルギーの節約に寄与していると結論付けています。

 

終わりに

飢餓状態での代謝制御機構というと、ノーベル賞のオートファジーが思い出されます。イントロンが細胞増殖の調節に関わるという今回の発見は出芽酵母によってなされましたが、同様のメカニズムがヒトを含む真核生物で一般的に存在する可能性があります。どこまで一般化出来るのか、更に予想外のイントロンの生理機能もあるのか、今後の研究が楽しみです。

今回の2つの論文ではどちらもイントロンが飢餓状態でエネルギーの節約に寄与するという結論に達していますが、それぞれの論文では発見したイントロンの構造が異なります。これらがどのように作られて機能するのか、その機構は今後更に研究が進むでしょう。

思いもよらないことがどんどん出てくる、RNAワールドは壮大ですね。モデル生物の研究は奥が深い。

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