近年、研究者界隈で大きな話題になっているCRISPR/Cas。「核酸の認識と切断」からなるこの技術は、ゲノム編集に応用できるだけでなく、ウイルスを高感度で検出する手法に使えるのではないかと考えられています。
さて、CRISPR/Cas研究の第一人者として知られるJenifer Doudnaらのグループが「CRISPR/Cas12aが1本鎖DNAウイルス検出ツールとして使える」と言うことを示した論文を発表しました (Science, 2018)。さらに、 DoudnaらとCRISPRの特許で争っているFeng Zhangらのグループも同じ号に「Cas13とCas12aとCsm6が核酸検出ツールとして使える」という論文を発表しています (Science, 2018)。
この辺りの争いについてもう少し詳しく書いていきます。
CRISPR/Casをウイルス検出に使うというアイディア
菌がウイルスに対して持つ自然界に存在する獲得免疫システム、それがCRISPR/Casです (CRISPR – Wikipedia、Cell, 2018)。つまりこのシステムをウイルスの検出ツールとして使うという発想自体は新しいものではありません。
実際マイクロアレイと組み合わせてウイルスを検出したという論文が発表されていたりしますが(Appl Environ Microbiol, 2010)、もっと迅速・勘弁・安価にウイルスを検出できないかと技術革新が続けられています。
CRISPR/Casを使ってRNAウイルスを検出した
まずDoudnaらがRNAを切断する新たなCasタンパク質であるCas13a (C2c2) を発見し、これがRNAの編集やRNAの検出に使えると言う論文を発表しました (Nature, 2016)。そのわずか半年後、Feng ZhangらがRPA (Recombinase Polymerase Amplification) というin vitro核酸増幅法とCas13aを組み合わせた技術を開発しました。
SHERLOCK法 (Specific High Sensitivity Enzymatic Reporter UnLOCKing) と呼ばれるこの技術を使えば、ごくごく微量 (attomolar, 10^-18) のRNAウイルスが勘弁かつ迅速に検出できることが示されました (Science, 2017)。
CRISPR/Casを使ってDNAウイルスを検出した
その更に数カ月後、 DoudnaらがDNAウイルスの検出に応用可能な発見をしました。Cas12a (cpf1) というゲノム編集でよく使われているCasはPAM配列依存的に2本鎖DNAを切断することがよく知られていますが、ガイドRNA結合状態では非特異的に1本鎖DNAを切断することを新たに見つけ、プレプリントサーバで報告しました (bioRxiv, 2017)。
今回Science誌に出た論文では、Cas12aによる1本鎖DNAの切断と前述したSHERLOCK法とを組み合わせ、ヒトの検体からDNAウイルスであるヒトパピローマウイルスHPV16とHPV18を迅速に検出できたことを強くアピールしています(Science, 2018)。
Feng Zhangらも負けていません。同じ号のScienceにCas13とCas12aとCsm6を使い、プローブを蛍光多色標識することで複数のウイルスRNAを同時に検出する発展技術SHERLOCKv2を発表しました (Science, 2018)。Doudnaらのプレプリントを見たのかCas12aを利用したDNA検出も論文には含まれています。
DNAウイルスもRNAウイルスもシンプルなステップかつ同時に調べることが出来る便利な技術が出来つつあるように思われました。
終わりに
こうして見ると「発見のJenifer Doudna」、「応用のFeng Zhang」と言う感じですね。
East-Seletsky et al. Nature 2016のRef. 9, 10にもあるように、Cas13aはFengらが発見しているかと思います。また、Cas12a(Cpf1)、Cas13a(C2c2)などもFengとEugeneが発見しているので、「終わりに」の冒頭は少し正確ではないように感じました。細かくてすみません。
— hnisimasu (@hnisimasu) March 14, 2018
互いの成果を迅速に取り入れ、数ヶ月単位で論文を発表しまくる激しい争いがゲノム編集技術の開発でも繰り広げられてきていました。
興味が出てきた人は、Jenifer Doudnaが書いた『CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見』という本を読むことをおすすめします。人間によるゲノム編集の歴史、CRISPR/Casの発見とその応用、さらにCRISPRがどのように人類の未来を変えうるかドラマチックに書かれていてとても面白かったです。
個人的には特許を巡る争いでの牽制球を兼ねているのかな、と思いました。ウイルス診断技術でも争っていることを知って、ますますCRISPR/Casから目が離せそうにありません
参考文献
CRISPR-Cpf1によるPAMの寛容な認識機構 : ライフサイエンス 新着論文レビュー
4月16日:CRISPRは検査にも使える(Scienceオンライン版掲載論文) | AASJホームページ
One thought to “CRISPR/Casを使ったウイルス検査手法の開発を巡る熱いバトル”