膨張顕微鏡による病理組織のナノスケール解析

小中学校にも置いてあるようないわゆる普通の顕微鏡、光学顕微鏡には拡大できる限界があります。どんなに良いレンズを使ってサンプルを拡大して見ても、可視光では200nm程度のものまでしか見えないのです。

「サンプルを物理的に巨大化させてしまえば、200nm以下のものも見えるのではないか?」という奇想天外な発想をした研究者がいます。この技術は膨張顕微鏡 (expansion microscopy) と言われ、実際にナノスケールの構造を従来の光学顕微鏡で観察できるとして注目を集めています (脳を膨らませてナノスケールの細部を観察 | Vol. 12 No. 4 | Nature Research)。

膨張顕微鏡がどこまで発展性があるか議論されていましたが、普通の病理標本をこの手法で拡大してナノスケールの違いを判別できたと言う論文がNature Biotechnology誌に発表されました。

 

 

膨張顕微鏡の基本

繰り返しになりますが、膨張顕微鏡は「サンプルを物理的に拡大する」手法です。細胞の中にあるタンパク質を固定し、そこに紙オムツに使われるような高吸水性分子を流し込み、それを重合させることでサンプルを物理的に拡大します。

初期は4~5倍程度までしかサンプルを大きく出来ていませんでしたが、現在は20倍以上大きくすることが可能になっています (Nature Methods, 2016)。凄いですね。

 

病理標本への応用

さて本題です。膨張顕微鏡はホルマリン固定パラフィン包埋組織、HE染色標本、新鮮凍結切片などの従来の病理標本に応用可能であると筆者らは言っています。詳しい手法は実際の論文 (Nature Biotechnology, 2017) またはExpansionMicroscopy.orgに書いてあります。

上の図では、(a)通常の光学顕微鏡ではボケてしまっている構造が (b) 膨張顕微鏡によって鮮明に見えることが分かります。これによって、(d-g)これまで電子顕微鏡を使わなければ判断ができなかった腎臓微小変化群、基底膜上皮細胞の足突起の消失、が従来の光学顕微鏡で判断できたと言っています。

 

電子顕微鏡や超解像顕微鏡は非常に値段が高く、ナノスケールの解析が全ての病院・研究所で出来ているわけではありません。膨張顕微鏡は必要な試薬が安く、多くの研究施設にある光学顕微鏡を使ってナノスケール解析が可能になることが大きなメリットです。ナノスケールで見て初めてできる病理診断が、膨張顕微鏡によって一気に広まるかもしれません。いやー、凄いですね。

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