愛嬌のある見た目と名前から一部で人気があるハダカデバネズミ、ガンにならなかったり寿命が長かったりと不思議な能力を持つ生き物として知られます。
さて、先日のScinece誌ではハダカデバネズミが酸素がない状態でも18分以上生きる(普通のネズミは死ぬ)ことが報告されました。
・Fructose-driven glycolysis supports anoxia resistance in the naked mole-rat (Science, 2017)
・Rewiring metabolism under oxygen deprivation (Science, 2017)
解説記事を真面目に書こうと思っていたところ、既にナショジオなどで記事が書かれており気力が無くなりました。引用というズルい手段を使いつつ適当に流します。
研究の背景
換気状態の悪い地下のトンネルで数百匹の仲間とともに暮らすハダカデバネズミは、二酸化炭素濃度が10%にも達する状態にしばしば見舞われる。
人間なら死んでしまう濃度だ。この状態になると、ハダカデバネズミは意識を失い、心拍数を下げ、呼吸を止める。だが再び酸素が供給されると、すぐに呼吸を再開して、間もなく活動を始める。その後に悪影響が残ることもない。
この「ミニ冬眠」をやってのける仕組みを探ろうと、米イリノイ大学シカゴ校のトーマス・パーク氏らの研究チームは、ハダカデバネズミを研究室内で低酸素状態に置いた。
ハダカデバネズミが低酸素状態でも生きられる理由
フルクトースは通常、毒性が高く、人間は腎臓と肝臓で代謝している。一方ハダカデバネズミは、フルクトースを処理できる酵素を全身に持っており、心臓や脳も例外ではない。
具体的にはGLUT5とKHKの発現が高いようです (Fig2 E-G)。実際、ハダカデバネズミの脳と心臓はフルクトース投与に反応するのですが、マウスではそれが見られません (Fig3)。
下図の左上にあるGLUT5がフルクトースのトランスポーター、フルクトースをリン酸化する酵素がKHK (KetoHexoKinase=ケトヘキソキナーゼ=フルクトキナーゼ)
何故わざわざフルクトース代謝?
では低酸素状態でグルコース代謝ではなくフルクトース代謝を使う合理的な理由があるのでしょうか。筆者らは「グルコース代謝ではphosphofructokinaseがATPやH+, citrateでフィードバック阻害を受けるためここが律速になるが、KHKを介したフルクトース代謝はそこをバイパスできる」と考えています (Fig4)。
この論文はハダカデバネズミが低酸素状態でフルクトース代謝を使っていることを明らかにしました。しかしフルクトースのソースかわ何処なのかがまだ明らかにされていません。非常に気になるところです。
終わりに
このハダカデバネズミが持つ仕組みを真似ればヒトも低酸素状態での臓器のダメージを減らせるのではないか、究極的には無酸素状態でも生きれるのではないかと夢が膨らみます。本当にそんなことが可能になるのか、未来が楽しみです。
PS. ハダカデバネズミ以外の動物の脳でフルクトース代謝に関わる分子の発現がどうなってるか検索したところ幾つか論文が見つかりました。
- 小脳のプルキンエ細胞でGlut5とKHKの発現が見られる (Molecular Brain Research, 2010)
- ヒトの脳でグルコースからフルクトースが作られる (JCI insight, 2017)
PS2. GLUT5の構造解析