日本発・クモ糸タンパク質入りの強靭絹糸が誕生!!

つい先日人工クモ糸製品化についての記事を書いたのですが、それから数日して生物研から新たな研究成果が発表されていました。

この研究成果を蚕の品種改良の歴史、また人工クモ糸の研究と比べながら簡単に解説致します。

 

 

カイコの交配による絹糸の品質向上

養蚕の歴史は非常に古く、今から5,000~6,000年ほども前に中国の黄河や揚子江流域で野生のクワコを家畜化始まったと言われています*1。養蚕技術が日本に伝わったのは紀元前200年前くらい、それから2014年の現在まで養蚕は続いており、産業の重要な一角を担っています。

養蚕が進められる中で、より良い絹糸を作るようにカイコの品種改良が行われてきました。例えば1998年には、2デニール以下の絹糸を作る品種はくぎんが樹立されています。

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上図のように、カイコの品種改良は既存の品種を掛け合わせることで行われています。近年になって、遺伝子組み換え技術がカイコにも応用されるようになりました。

 

遺伝子組み換え技術による絹糸の改良

筑波にある農業生物資源研究所(生物研)はカイコの遺伝子研究の第一線を走っています。この研究所は2000年に世界で初めて開発したカイコの遺伝子組換え技術を開発、さらに2008年にはこの技術を応用して緑色蛍光タンパク質 (GFP) をカイコに発現させて光る絹糸を作り出すことに成功しました。

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この遺伝子組み換え技術を用いれば、単に光るだけでなく、より細くて強い絹糸を作る品種を作出することが出来ます。絹糸よりも強い新たな糸を作り出すために、研究グループはクモの糸に着目しました。

 

クモ糸タンパク質 – カイコタンパク質の融合

クモは獲物を捉えるベトベトした横糸と、巣を支える強靭な縦糸という別々の糸を作ります。このクモの縦糸を構成する遺伝子の配列は同定されており、このタンパク質だけを大腸菌などの別種の細胞に発現させることが可能になっています。

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論文の図を改変

まず研究グループは、この蜘蛛の縦糸タンパク質とカイコのフィブロインタンパク質を融合させたタンパク質を設計しました。

 

次に研究グループは、この新規融合タンパク質を良質な絹糸を作り出すC515という品種に導入しました。

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論文の図を改変

遺伝子を導入したカイコ (C515) は、元々持っているカイコ糸タンパク質と融合タンパク質を両方作り出します。そのためクモ糸タンパク質の含有量は糸全体に対して0.37~0.61% (重量比) になります。このクモの縦糸タンパク質を含んだ絹糸は、通常の絹糸より切れにくさが1.5倍も向上していました。これは鋼鉄の約20倍も切れにくいアメリカジョロウグモの縦糸に匹敵するほどだったそうです。

 

クモ糸タンパク質を発現する絹糸は即実用化可能

ではこのクモの縦糸タンパク質を含んだ絹糸を安定的に作り出し、また通常の絹糸と同様のに加工することが出来るのでしょうか?遺伝子導入した品種でも繭の大きさは変わらなかったことから、通常と変わらない量の絹糸を調整できると思われます。実際、デモンストレーションとしてクモの縦糸タンパク質を含んだ絹糸で衣服が作られています。

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右はクモ糸タンパク質入り絹糸で作られたベストとスカーフ

論文をざっと見た限りこの品種は交配しにくいという記述もなかったので、今回作出された新たな品種 (C515-SpA1, C515-SpA2) は安定的に交配して維持することが可能だと思われます。それは即ち、全世界の養蚕施設にこの新品種を導入すれば、直ちにクモの縦糸タンパク質を含んだ絹糸が量産できるということです。

 

他の人工クモ糸研究との比較

クモの糸を作り出すカイコと言うと、先日のWiredの記事を思い出す人もいるかもしれません。こちらは米国のKraig Labsが開発したと報道されているものであり、今回の日本発の研究とは別物です。Kraig Labsがどのようにしてクモ糸タンパク質を導入したか、またその強度がどの程度かは私が調べた限り不明でした。
生物研のハイブリッドシルクとどちらが先に実用化されるのでしょうか。その品質の違いにも注目です。

また日本発の人工クモ糸の開発というと、山形のベンチャー企業Spiberを思い出す人が多いと思われます。Spiberはクモ糸タンパク質100%の人工繊維の合成を目指しています。この人工クモ糸は平成27年度中に月産1tの量産技術が確立し、その工場を平成28年中に稼働させる計画であると報じられています。

米国だけでなく、ドイツや韓国にも競合企業が存在します。その辺については先日の記事に書いたので、そちらを見て頂けると助かります。

 

終わりに

いやー、クモ糸タンパク質入りの新繊維の研究が盛り上がってきましたね。クモ糸ハイブリッドシルクはKraig Labsが持っていくのかと思っていましたが、今回の発表により分からなくなってきました。実に面白い。

このブログでは以前にもクモ糸・カイコ糸について色々書いています。興味がある人はそちらもどうぞ。

 

PS.「糸が通常の1.5倍も切れにくくなったらカイコが繭から出てこれないんじゃないの?」というコメントを頂きました。カイコは物理的に繭を破るのではなく酵素の力で糸を溶かして出てくるそうです*2。絹糸を作る際はカイコが繭に穴を開けると品質が落ちてしまうので、その前にゆでてしまうそうです*3

PS2.茹でたカイコは美味しいというコメント、臭くてまずいというコメントを頂きました。なおカイコは食品として中華街またはコリアンタウンで買えるそうです。

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