本日、Thomson Reutersが最新のインパクトファクターを発表しました。誤解を恐れずに簡単に言うと、この数値が高い科学雑誌ほど重要性が高いと言う事になります。以下、レビュー誌と専門誌を除いた簡略版を載せます。
総合誌
- Nature (42.4)
- Science (31.5)
- Nature Communications (10.7)
- Proceeding National Academy of Science (9.8)
- Scientific Reports (5.1)
- Plos One (3.5)
化学誌
- Nature Materials (36.4)
- Surface Science Reports (24.5)
- Nature Chemistry (23.3)
- Advanced Materials (15.4)
- Journal of the American Chemical Society (11.4)
- Angewandte Chemie International Edition (11.3)
- Chemical Science (8.6)
- Chemical Communications (6.7)
- Chemical Engineering Journal (5.7)
- Journal of Biological Chemistry (4.6)
物理学誌
- Nature Materials (36.4)
- Nature Nanotechnology (33.2)
- Nature Photonics (29.9)
- Physics Reports (22.9)
- Nature Physics (20.6)
- Nano Today (18.4)
- Physical Review Letters (7.7)
生物学誌
- Nature Biotechnology (39.1)
- Cell (33.1)
- Nature Genetics (29.6)
- Nature Methods (25.9)
- Nature Immunology (24.9)
- Cancer Cell (23.9)
- Cell Stem Cell (22.1)
- Nature Cell Biology (20.1)
- Immunity (19.7)
- Cell Metabolosm (16.7)
- Neuron (15.9)
- Nature Neuroscience (14.9)
- Molecular Cell (14.5)
- PLoS Biology (11.8)
- Nature Structural Molecular Biology (11.6)
- Current Biology (9.9)
- PLoS Genetics (8.2)
- eLIFE (8.5)
- Cell Reports (7.2)
- Science Signaling (6.3)
医学誌
- New England Journal of Medicine (54.4)
- Lancet (39.2)
- Nature Medicine (28.1)
- Lancet Oncology (24.7)
- Lancet Neurology (21.8)
- Lancet Infectious Diseases (19.4)
- Journal of Clinical Oncology (17.9)
- PLoS Medicine (14.0)
しかし生物系はIFが高い雑誌が多いですね。細分化してるとキリがないので、専門誌のIFに興味がある人はJCRを見れると思うので、ご自身で確認お願いします。
これより後は、論文のインパクトファクターとは何か、またその問題とは何かについてよく知らない人に向けて簡単な文章を書いてみました。
科学論文の重要度をどうやって可視化するか?
世界では毎日無数の科学論文が発表されています。これを全て読むことは出来ませんし、チェックするだけでも非常に大変です。出来ることならば、科学的に面白く信頼できる論文から優先してチェックしたいものです。
しかし科学雑誌をどのように比較するかは大変難しい問題です。「雑誌の販売数で比べればいいのでは?」と思われるかもしれませんが、発行するのは商業出版社以外にも、学会が非営利的に運営するものもあります。もっと科学論文の内容とその影響に基づいた指標を考える必要があります。
そこで1955年に考案されたのがインパクトファクターです。インパクトファクターは科学雑誌の引用された回数に基づいて計算されます。みんなが引用する論文は発見にインパクトが有り、また科学的に正しいだろうと言う考えです。
インパクトファクターはWeb of Scienceの収録雑誌の3年分のデータを用いて計算される。たとえばある雑誌の2014年のインパクトファクターは2012年と2013年の論文数、2014年のその雑誌の被引用回数から次のように求める。
A = 対象の雑誌が2012年に掲載した論文数
B = 対象の雑誌が2013年に掲載した論文数
C = 対象の雑誌が2012年・2013年に掲載した論文が、2014年に引用された延べ回数
C ÷ (A+B) = 2014年のインパクトファクター
例えば、この2年間合計で1,000報記事を掲載した雑誌があったとして、それら1,000報の記事が2014年に延べ500回引用されたとしたら、この雑誌の2014年版のインパクトファクターは0.5になる。
出版社がどれだけインパクトファクターを気にしているか、またその高さを誇示するかは、Nature社が書いた昨年の記事を見ても分かります。
しかしインパクトファクターは万能の数値ではありません。
インパクトファクターの問題
インパクトファクターは平均的な引用数に基づいた値です。もし一つの論文が異常なほど多く引用されてしまったら、その論文のインパクトファクターは一時的に急上昇します。有名な例としてこんなものがあります。
2009年にActa Crystallographica Section A: Foundations of Crystallographyが49.9というとんでもないインパクトファクターを叩き出し、結晶学の専門家の間で話題になっている。
この原因は、主にジョージ・シェルドリック教授のたった一報の論文が43,000回以上も引用されたことによる。
その分野の研究の歴史をまとめた総説は、科学論文を書く際に多くの人が引用します。インパクトファクターは総説論文と通常の論文を一緒くたにして計算されるため、科学雑誌がレビューを増やすことが問題だと言われることがあります*1。
また分野によってインパクトファクターの平均的な値が全く違うことも問題です。研究者の数が多ければ、引用数が増えるのはあたりまえです。冒頭のリストを見れば医学・生物系の科学雑誌はインパクトファクターが高めに出る傾向があります。中でも幹細胞、免疫、脳神経と言った研究が盛んな分野のIFが高いことが見て取れるはずです。
別分野の論文誌のインパクトファクターの多寡を語るのは、都会と田舎のラーメン屋を食べログの点数で優劣を付けるのと同じぐらい愚かな事
— ホン (@honmogorov45) 2014, 7月 31
バイオ系のインパクトファクター二桁あるジャーナル名見ても一度も見たことない雑誌名ばっかりだ
— スョージ@ケータイなくしました (@shoG3) July 30, 2014
全ての学術誌を横並びに比較すること、それはやはり無理があるのです。インパクトファクターが低い雑誌に発表され、後にノーベル賞に結びついた論文もたくさんあります。インパクトファクターの高さは論文の質を完全に保証するわけではなく、あくまで一つの指標に過ぎないということは心に留めておかなくてはいけません。
終わりに
普段科学雑誌を読まない人は「インパクトファクターが高い雑誌に出ている論文は凄いらしい」とでも覚えておいて下さい。生物系の場合、大学・研究機関からプレスリリースが出るような論文の大半は冒頭のリストに含まれます。
以前に「信用性が高そうな論文のリストをくれ!」とコメントしていた人がいましたが、こんな感じで如何でしょうか。まあインパクトファクターが高い雑誌に出た論文=信頼性の高い論文ではないことは、STAP細胞の事例を思い出せば良く分かっていただけるでしょう。繰り返しになりますが、あくまで指標の一つです。

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PS.英語が読める人にはNatureがインパクトファクターについて書いた記事をオススメします。
PS2.数学が抜けてたり複合領域が片側だけに入ってたりするのは許して下さいm(_ _)m
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