マウスでは母乳が子供の記憶力に影響することが実験的に示された

母乳に含まれる免疫物質が海馬の発達と記憶に影響することを示した論文が発表されました。

2013年の12月に出た論文ですが、まだネットで話題にしてる人もいなかったので、簡単にご紹介いたします。

(マウスでの実験結果と言うことを前提にお読みください。また当論文は母乳・母乳代替品のどちらかが優れていることを主張するものではありません。)


母乳には免疫物質が含まれる

母乳には赤ちゃんの成長に大切な水分や栄養素だけでなく、抗体をはじめとした免疫に関係するタンパク質が多く含まれます。このような免疫物質は赤ちゃんに細菌やウイルスに対する抵抗性を与え、様々な病気のリスクを下げます。母乳は単なる栄養価の高い飲み物ではないのです。

f:id:mdr52:20140404122059j:plain
母乳栄養の利点には、乳幼児突然死症候群のリスクの低下、中耳炎のリスクの低下、風邪への抵抗、小児白血病のリスクの若干の低下、小児糖尿病のリスクの低下、ぜんそくや湿疹のリスクの低下、虫歯の予防、後年の肥満の予防等がある。

さらに母乳は知能の向上、自閉症のリスクの低下などにも効果があると言われています*1。しかし母乳に含まれるどの成分が脳の発達に影響するのかは良く分かっていませんでした。

免疫物質は脳内で別の機能を持つ

免疫物質の主要な機能は、その名が示すように異物から体を守ることです。しかしこれらの分子は脳にも存在し、免疫とは別の機能を持つ事が近年になって分かり始めました。

例えば抗原提示に必要なタンパク質であるMHCが脳の左右差の形成に関与していたり*2、またサイトカインは記憶や神経疾患に影響します*3

f:id:mdr52:20140404144100j:plain
免疫物質は脳機能に影響する

さて、前述したように母乳には免疫物質が多く含まれます。そこで筆者らは「母乳に含まれる免疫物質が子供の脳の発達にも影響するのではないか?」と考え、これを検証する実験を行いました。

免物質の量が少ない母乳を飲ませると仔マウスの記憶力が向上した

実験は非常にシンプルです。TNFαと言うタンパク質を持たない動物の母乳を正常なマウスの子供に与え、脳の発達に違いが出るかを調べました。

TNFα (Tumor Necrosis Factorα, 腫瘍壊死因子α) はその名が示すように「固形がんに対して出血性の壊死を生じさせる因子」として初めて発見され、その後炎症反応に主要な役割を持つことが明らかにされました*4。TNFαを欠損した動物は細菌に感染しやすくなります。
興味深いことに、TNFα欠損マウスでは記憶力が向上していることが報告されました (Cerebral Cortex, 2004)。しかし別の研究グループはTNFαを欠損したマウスの記憶力は通常と大差ないことを報告しました (J. Neuroimmunol, 2000)。そのため、TNFαが本当に記憶力に影響するかは結論づけられていませんでした。
筆者らは「これら二つの論文で比較しているマウスが違う」ことに気づきました。記憶力が向上したと言っているグループはコントロールが同腹仔ではないが、記憶力が変わらなかったと言うグループはコントロールが同腹仔である、と。これらの結果を踏まえ、この論文の研究グループは母乳が子供に与える影響を直接的に評価するために、野生型の動物とTNFα欠損動物の子供を半分ずつ交換すると言うコントロールを取って実験を進めました。

f:id:mdr52:20140404121737j:plain
1. 普通の子供 × 普通の母乳
2. 普通の子供 × TNFαヘテロの母乳
3. TNFα欠損の子供 × TNFαヘテロの母乳
4. TNFα欠損の子供 × TNFα欠損の母乳

驚くことに、TNFα欠損動物の母乳を与えた子供は海馬(脳の記憶に関係する領域)の一部が大きくなり、さらに記憶力テストの結果も向上しました。一方で普通の母乳をTNFα欠損動物に与えても記憶力の向上は見られなかったことから、母乳がTNFα欠損による記憶力向上の主要因であることが示唆されます。

ではTNFαを欠損した動物の母乳ではどの成分が変わっているのでしょうか?母乳に含まれるタンパク質を詳細に調べたところ、TNFα欠損動物の母乳では免疫物質 (IP-10, MIP-1β, MCP-1, MCP-5, Lymphotactin, Eotaxin) の量が減少していました。筆者らはこれらの免疫物質が記憶力の向上に必要十分かを実験的に検証し、最終的に「母乳に含まれる免疫物質が子供の海馬の発達と記憶力に影響する」と言う結論を導いています。

終わりに

「免疫物質の量を制御して子供を賢くしたい!」と思う人がいるかもしれません。しかし今回の結果はマウス実験によって得られたものですし、まだ人間でも同じ結果が出るかは不明で慎重な判断が求められます。この論文の結果を医師や研究者がどう受け止め、さらに応用に繋げるのか、今後の動向を見守るのが良さそうです。

母乳の成分を調整することで子供の記憶力を高めながら免疫力もつける、そんな時代が本当に来たら凄いですね。

[asin:B00966HAIO:detail]

Pocket