ゲーマーの力添えでRNAの高次構造を作る新たなアルゴリズムが誕生した

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人間の柔軟な思考と大規模なデータ解析とを融合させると、単にコンピューターだけを使うよりも素晴らしい成果が出せると考えられています。

これを研究に適用したのが市民参加型の科学プロジェクトです。これまでに以下のような科学ゲームが研究者によって作られてきました。

  • タンパク質構造予測ゲーム『fold it
  • 銀河系ゲーム『Galaxy Zoo
  • 神経細胞塗り絵ゲーム『EyeWire

最新のPNAS誌には「科学ゲームのデータから効率よくRNAを設計するアルゴリズムを生み出した」と言う論文が発表されました。

研究グループはなぜRNAを折り畳むゲームをわざわざ開発したのでしょうか?またその成果とは?これらについて簡単にご説明いたします。


RNAは折り畳まれることで機能する

皆さん良くご存知のDNAは化学的に安定的な構造をとるため、細胞内で遺伝情報の記録媒体として使われます。

一方でRNAは面白い構造を作ることができます。これはDNAに比べて分子の自由度が高いからです。

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RNAは自立的に複雑な形を作る*1

A, U, G, Cの四文字(四つの化学物質)の繰り返しで作られるRNAは、その文字の順番と長さに応じた形を作ります。上図を見ればRNAがいかに複雑な形を作るか良く分かると思います。

複雑な形を作ったRNAは機能的な分子として働くことができます。もちろん単に複雑な形になるだけではダメで、機能の発揮に適した形になる必要があります。

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酵素のような機能を持つRNA

RNAも酵素のように機能することを示した研究は、細胞内でタンパク質だけが機能的な分子であるという既成概念を覆し、1989年にノーベル化学賞を受賞しました*2。『リボ核酸(RNA)+酵素=リボザイム(リボ酵素)』実に分かりやすくて良い名前です。

RNAの機能を人工的に進化させる研究

しかしタンパク質が多彩な機能を持つ一方で、現存するリボザイムはRNAの切断や連結などリン酸関連の反応を触媒する機能に限られています*3

「ならば配列を人工的に改変・設計することで、RNAにも多彩な機能を持たせてしまおう!」と言う研究が世界中で盛んに行われています。

RNAの高次構造を設計する問題点

機能的なRNAを設計するにはコンピューターシミュレーションが適しています。これまでにループやヘリックスといった単純なRNAの構造を作るアルゴリズムが開発されてきました。しかしRNAはたった1塩基変わっただけでその構造が激変してしまう特性を持ちます。

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たった1文字変わっただけで左側のループ構造が大きく変化している*4

そのためコンピューターの単純なトライアル・アンド・エラーだけでマルチループのような複雑な構造を作ることは難しいと言う問題がありました。

この問題を解決するために、研究グループは人間の直感力と自由な発想に目をつけました。パズルゲームとしてRNAの構造を解かせ続け、そのデータから構造設計の最適解を導こうと言う考えです。

RNAの二次構造を作るゲーム『EteRNA』

このゲームのルールはとても単純です。『AとU』『GとC』がそれぞれペアを作る、それだけ覚えてもらえば大丈夫です。ペアが決まればRNAは勝手に折り畳まれます。

あとは指定された形になるように試行錯誤しなからRNAを折り畳むだけです。

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EteRNAと言うブラウザゲームでは塩基配列をいろいろ変えていって欲しい構造を目指す。例えばpuzzleと称してこのような課題が示される。解いていくとポイントが貯まって、これが一定量を超えると実際に科学者がほしがっている構造に着手できるRNALabというコーナーで遊べる、という仕組み。

ゲームの回答を沢山集めて解析し、それをコンピューターに覚えさせ、結果をユーザーにフィードバックし、さらにデータを集め・・・と言う作業を研究グループは繰り返しました

EteRNAから生まれた新たなアルゴリズム『EteRNAbot』

この研究では3万7千人ものユーザーから10万ものデータセットを集めたそうです。

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論文のFigure2より

この戦略を元に作られた新たなRNA設計アルゴリズム、その名もEteRNABot!!!!まんまですね。

よく調教された人間たちとEteRNABotは、それぞれデンドリマー様の構造を作り出せるまで成長したそうです。

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デンドリマーの例*5

こんな複雑な構造(実際作ったRNAデンドリマーがどんな形は分かりませんが)を作り出せるまでに調教されたとは驚きました。アルゴリズムもですがゲーマーも凄いですね。

終わりに

RNAは人工的に合成する手法が確立されており、またRNAを薬として使う*6ことも可能です。もしかするとEteRNAbotを使って画期的な新薬が開発されるかもしれませんね。

EteRNAという大型プロジェクトが今回の論文の成果だけで終わるということはないでしょう。筆者らもRNAの三次元構造を作るアルゴリズムにも興味が有るようです。
ですのでこのプロジェクトに参加するのは今からでも遅くないと思います!EteRNAは英語で作られているので若干取っ付きにくいことが問題ですが、時間がある人は是非!

PS.海外の科学ニュースを丁寧に和訳して紹介することに定評のある『科学ニュースの森』さんも記事にされていました*7。こちらもご参照あれ。

PS2.緩く書き切ってしまったので専門家の皆様にまた怒られてしまいそう。今度はvivoでのmRNAの高次構造について書けたらいいなと勉強中です。

PS3.こう言うin sillicoで作ったRNAって、in vivoでも同じように折り畳まれるもんなんです?専門家の人、ヘルプお願いします!

PS4.しかしこのゲームは名前が良くないですね。Eterna(エテルナ)っていうスイスの時計メーカーがあったりでSEO微妙なのでは。

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