2013年の『科学ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー』を10分で理解してみよう

12月も終わりということで、Science誌で今年を代表する科学研究が特集されています。

簡単な解説文を書いてみました。駆け足ですがお付き合い下さい。


2013年のbreakthrough of the yearはがん免疫療法

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今年の5月頃に「Ipilimumab (抗CTLA-4抗体薬) とNivolumab (抗PD-1抗体薬) の併用療法により、進行悪性黒色腫患者の約半数で長期間の腫瘍縮小効果が得られた」と言う論文が発表されました*1

Science誌はこの抗体医薬の研究をがん免疫療法における大きな進歩であると位置づけており、breakthrough of the year 2013として、CTLA-4の発見から抗体薬が開発されるまでの歴史的経緯を特集しています。医薬に関係している人は読んでおくべきでしょう。

次世代の遺伝子工学技術CRISPR/CAS

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遺伝子を自由に切り貼りするためのツールとして近年飛躍的な発展を遂げているのがCRISPR/CAS systemです。この系は利便性が高いため、既に世界中の研究室で実験に使われ始めています。

CRISPR/CASの解説は以下の記事が非常に分かりやすいです。遺伝子工学の基礎知識がないと理解するのが少し難しいと思いますが、教科書を片手に是非学んでみてください。

あ、念のために言っておきますが、人間の遺伝子を自由自在に改変できるクールでマッドな時代はまだ来ていません。

脳を透明化する手法が凄い!

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電気泳動法という一般的な実験手法を用いて脳を透明化したと言う論文は人々に大きな驚きを与えました。この簡便で効果的な手法によって神経回路網を調べることが容易になりました。

手前味噌ですが、私が書いた以下の解説記事が分かりやすいと思います。

来年以降はCLARITYを使った論文が沢山発表されるのでしょうか。楽しみです。

ヒトのクローンES細胞の作製

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クローン羊のドリーが誕生したのは1996年。しかし霊長類のクローンを作るのは技術的に難しく、その後10年以上もヒトES細胞の作製に成功していませんでした*2

2013年になって、初めてヒトのクローンES細胞が樹立されました。

これを子宮に戻せばヒトのクローンが生まれる可能性があるため、まだ様々な倫理的な問題が残っていますが、この研究が発生生物学の大きな一歩であることは間違いありません。

試験管内で小さな臓器を作る

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ES細胞やiPS細胞を使った再生医療の大きな目標として人工的に臓器を作製することが掲げられます。今年になって、三次元的な脳 (によく似た組織) を作ることに初めて成功しました。

以下の記事で論じたように、今回作成した人工脳と実際の脳の間には大きな隔たりがあるのですが、今後研究が進むに連れてさらに改良されていくでしょう。

このような研究によって脳の発生メカニズムの理解が進み、また人工脳は神経疾患の原因究明や薬剤スクリーニングに役立つと期待されています。

Fermiガンマ線望遠鏡による宇宙線の加速源の特定

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宇宙空間では陽子や原子核といった粒子が光速に近いスピードで飛び交っています。これらは宇宙線と呼ばれており、地球にも沢山降り注いでいるのが観測されています。しかし宇宙線の発見からもう100年になりますが、それががどこで生成・加速されているのか特定されていませんでした。

今年になって、人工衛星のFermiガンマ線望遠鏡による観測で、高エネルギーの陽子が超新星残骸近傍に存在することが確かめられました。これまで多くの学者が、重い星が一生を終えた後に起こす超新星爆発の残骸が宇宙線の加速源だろうと考えており、今回の観測結果はこれと合致します。

睡眠は脳の老廃物を排出するために必要

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この論文も大きなニュースになりました。この写真は脳の血管を可視化したもの。睡眠中(左側)では覚醒時(右側)と比べて赤い色素が入り込む隙間が増えていることが分かります。

老廃物を排出すると言う機能が大きな話題になりましたが*3、この研究の本当に驚くべきところは、これまで不明であった脳の血液循環経路を見事に視覚化したと言うところではないでしょうか。

腸内細菌があなたの健康を左右する

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「日本人だけが海苔を分解出来る腸内細菌を持つ」とは良く聞きますが、腸内細菌がこれまで考えられていたよりも多種多様な働きを持つことが分かってきました。

一報目の論文は「肥満になることで腸内細菌叢が変化し、腸内細菌の代謝物が肝臓ガンを促進する」ことを報告し、大きなインパクトを与えました。

二報目の論文は「太った人の腸内細菌叢をマウスに移植するとマウスが太る」ことを実験的に示しました。実験の対照群として、太っていない双子の人を用いているので、信頼性も高そうです。

三報目の論文は「腸内細菌叢が動物の行動に影響を与え、また神経疾患に関与している可能性がある」ことを明らかにしました。

「腸を綺麗にして健康に!」と言う怪しいキャッチフレーズが横行しそうなほど重大な発見が沢山なされましたね。これらの実験結果を元に、より良い治療法や健康法が考えられていくと期待されます。

RSウイルスの結晶構造解析とワクチン開発

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RSウイルスは2歳までの子供がほぼ100%かかり、乳幼児では気管支炎や肺炎などの原因となることもあるウイルスです。これまで有効な治療薬はなく、基本的には対症療法を行うのみでした*4

このRSウイルスの構造を詳細に解き明かすことが出来れば、それを元に効果的なワクチンを設計することが可能になります。この構造解析の結果が2013年の5月に発表されました。

さらに11月になって、RSウイルスタンパク質のØ部位を標的とすることで効率のよいRSウイルスワクチンを作り出すことに成功したと言う論文が発表されました。

このワクチンが実用化される日が待ち望まれますね。また2013年はヒト免疫不全ウイルス (HIV) の表面タンパク質の構造解析もScience誌に発表されており、そちらも注目されています。

終わりに

他にもソーラーパワーに関するブレークスルーがあるのですが、不勉強なためそこはフォロー出来ません。お許し下さい。

しかしブレークスルーに入っている8割が医学・生物学系の研究なんですね。2013年にも化学や物理の素晴らしい研究が数多く発表されているので、このバランスの悪さには少し考えさせられるものが有りました。確かにインパクトはとても大切なのだけれど・・・。

さて、来年のブレークスルーにはどんな研究が入っているのでしょうか。きっと僕たちの想像もつかない研究が今まさにこの時に行われているのでしょう。いつかは自分の研究もブレークスルーとして挙げられたいものです(笑)

PS.冒頭の動画を見ると(英語ですが)3分半で理解できるらしいです! Thanx!!

PS2.「Fermiガンマ線望遠鏡による宇宙線の加速源の特定」はフォロワーさんが解説してくれました。Thanx!!

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