完全な『人工脳』を作るために欠けているものとはなにか?

f:id:mdr52:20130829120852j:plain
これがNature論文で作られたmini-brain

A.血管です

iPS細胞から"ヒトの脳組織”を作り出すことに成功*1、と言うニュースが大変話題になっていますが、専門家にも指摘されてる点

iPS細胞の研究に詳しい慶應義塾大学の岡野栄之教授は、「血管がないなど、脳を完全に再現したわけではないが、複雑なヒトの脳を解明していくうえで大きな一歩だ」と話しています。

が読み飛ばされて、あたかも『完全な』人工脳の作成に成功したと曲解されかねない (ほら、まとめサイトとか) と懸念したので、簡単な補足文を書きました。


血管は脳機能に大事

f:id:mdr52:20130831122903j:plain
脳は色んな細胞の集合体

栄養や酸素を運び、排出された老廃物や二酸化炭素を受け取るのが血液です。

よく「fMRIで脳の活動を見る*2」って言いますよね?あれは神経の活動を直接見ているのではなくて、血流の増加を見てると言うのは有名なお話。神経が活動するのに酸素が必要だから、そこに多くの血液が流れる。だから血液 (のヘモグロビンの酸化状態) を見れば脳活動が分かる、と言うロジック。
なので血管がないと、神経細胞が活動しても酸素を供給できないから、人々が想像するような『脳』として上手く機能しないと思われます。

脳組織の中央部では、酸素や栄養が行き渡らず細胞が死んでいた。

というのも、いくら培養液の中で長時間細胞を飼うことが出来るとはいえ、血管がないから深部まで培養液が行き渡らないと言った理由じゃないでしょうか。ほら、脳血栓ができて血が通わなくなると、周りの細胞死んじゃいますよね*3

血管も一緒に作らないと脳がうまくできない

10ヶ月かけても4mm程度の大きさにしかならなかった

っていうのは、栄養が十分供給されてないってことも考えられるけど、血管を足場にしながら神経細胞とグリア細胞が発達するとか、血管が出す因子が神経細胞を変化させるってことも知られてるので*4、その辺りも効いてるんじゃないでしょうか。

とは言え血管の発生を誘導する研究とかも行われているし、既に血管も含めた脳の発生に挑戦してるんじゃないかなー、と妄想していました。

いや、しかしこの論文凄いっすね

とは言えこの論文はNatureに出たくらいだしハンパじゃないです。iPS細胞から脳の層構造まで再現出来るとは思っていましたが、まさかここまで早いとは。
いきなり完全な脳が出来るっていうのは普通に考えてありえないのですが、「将来的には可能になるかもしれない!!」と思わせてくれる偉業です。いやはや、日進月歩の研究分野は凄いですね。

f:id:mdr52:20130829121437p:plain
これが実験の流れ (Fig.1)

f:id:mdr52:20130829152252j:plain
ES細胞またはiPS細胞から作ってるんですね。 (News&Viewsの模式図)

論文の解説をする気力も力量もないので、詳細が気になる人は元論文かNews&Viewsを読んでください。ではでは。

PS.血液について(id:tohrukuri)

細胞培養液は、細胞が自然に近い状態で育てられるように、様々な物質が加えられています*5。細胞培養液の中には一般的に血清 (血液由来の成分) も含まれ、血液と完全には同じでありませんが、似たような組成になっています。人工的に血液を作る研究もされていますが、まだ技術的に確立されていないので、こういった実験に用いるには現実的ではありません。

実際の論文の図を見ていただけると、発生の段階に応じて培養液 (media) を逐一変えているのがわかると思います。単に本物の血液を使えば上手く培養できるのではなく、その時々に最適な成分を加えてあげないと組織が上手く作れないのです。血管が作れたとしても、その中をどのくらいの速度でどんな成分の培地を流したら最適か考えなくてはいけないと思うので、大変そうですね。

Pocket