夏になりましたね!夏といえば海!海といえばヤシ!ヤシといえばアブラヤシ!
アブラヤシいぇーい!!!!
と言うわけでNature誌に「SEEDSTICKのホモログである種子殻遺伝子がアブラヤシの油量を調節する」という論文が報告されました。簡単にご紹介いたします。
ヤシには色々な種類がある
単子葉植物であるヤシは熱帯地方を中心に約3333種が存在します。古来より多くの種が様々な方法で利用されており、ヤシは人類にとって欠かすことの出来ない植物の一つです*1。

ヤシで一番有名なのはココナッツを食したり街路樹に使うココヤシですが、この論文の主役はパームオイルの原料となるアブラヤシです。
アブラヤシからパーム油を作る
アブラヤシは果実と種子から得られる油脂を目的として栽培が行われています*2。農地の単位面積当たり得られる油脂の量は植物中屈指であるとされ、パームオイルは世界で最も生産されている植物油です。

アブラヤシの実には種子殻が厚いdura、種子殻がないpisifera、それらを交配して出来る中間形質のteneraという3つの種類がある。通常pisiferaは雌性不稔である。
アブラヤシの果肉からはパーム油、種子からはパーム核油という2種類の植物油がとれます。つまり種子殻が薄く種子が大きいteneraから、この2種のパームオイルを最も効率よく取ることができます。
しかし種子殻の形質を決定する遺伝子が未だ不明であるため、これまで苗木の段階でteneraを判別することが出来ていません。このことから種子殻の形質を決定する遺伝子の解明は、パームオイルの生産量を高める上で重要な課題でした。
アブラヤシの種皮遺伝子の実態を解明した
研究グループはアブラヤシのDNAを読んで種子殻の形質を決定する遺伝子を探索しました。するとシロイヌナズナにおいて種子の発生を制御するSEEDSTICK遺伝子とよく似た遺伝子がアブラヤシにも存在し、それが種子殻の形質を決定することが分かりました。

SEEDSTICK遺伝子のアミノ酸配列を比較してみると、シロイヌナズナ, トマト, 桃といった他種の植物、またduraでも見られないアミノ酸置換がpisiferaで2ヶ所ありました。
SEEDSTICK遺伝子は、二量体化してDNAに結合する転写因子をコードしています。このpisiferaで見られるアミノ酸置換が入った転写因子は、二量体化の特性が変化し、ひいては転写調節活性に影響すると筆者らは考えています。
この研究がもたらす意義
自然由来のパーム油は環境と人体に優しいイメージを持たれています。また枯渇が危惧される石油燃料の代替として、バイオディーゼル燃料としてのパーム油の利用も進められています*3。
しかしアブラヤシの栽培はプランテーションにおける労働者の酷使や環境破壊などで批判を受けることが多く、2006年にはライオン社に要望書が提出されるなど*4、その生産には多くの問題が残されています*5。
今回の研究はアブラヤシの油量を決定する遺伝的な実態を明らかにしました。アブラヤシの効率的な交配が行われるように農場を改良すれば、環境に及ぼす悪影響を最小にしながら最大量のパームオイルを得ることが可能になると予想されます。
アブラヤシ研究の今後
同じ号のNature誌にアブラヤシのゲノムを解読したと言う論文が発表されました。
アブラヤシのゲノムが解読されたことにより、パームオイルの生産量を更に向上させることが出来る新たな遺伝子が発見されるかもしれません。今後の研究が楽しみです。
終わりに
ヒトの病気の解明に繋がらないことから、植物学は比較的研究費が出にくい分野と言われますが、その研究成果は環境や社会に大きな影響をもたらします。
植物学の研究がさらに進むことにより、熱帯雨林の保全問題や人類のエネルギー問題と言った難問が解決することを心から期待しております。
PS2.これを機にヤシでも育てようと一瞬考えましたが、そう言えば先日部屋に置いていたサボテンにカビが生えました。