ハダカデバネズミが持つ超ガン化耐性の一因は高分子量ヒアルロン酸である

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ハダカデバネズミという動物を知っていますか?『裸』で『出っ歯』の『ネズミ』なのでハダカデバネズミ (Naked Mole Rat) と名付けられました。

変わっているのは容貌と名前だけではありません。ハダカデバネズミは寿命が著しく長く、さらにガンにならないことから注目されています。

さて、最新号のNature誌に「高分子量ヒアルロン酸が超ガン化耐性の一因である」という論文が発表されました。簡単にご紹介致します。


アフリカ生まれのハダカデバネズミ

ハダカデバネズミはエチオピアやケニアに生息するげっ歯類の仲間です。長いものでは1kmにもなる巣穴を作り、その中で地下植物や植物の根を食べて暮らします*1

日本国内では上野動物園や埼玉県こども動物自然公園など、ごく一部の動物園で見ることができます。

ハダカデバネズミは超ガン化耐性をもった動物だ!

前述の通り、ハダカデバネズミは寿命が長くガンにならない珍獣です。何故このような性質を持つのかこれまで研究が進められてきましたが、近年になって「ハダカデバネズミは他の動物と比較して少ない細胞密度で細胞分裂が停止する」という興味深い現象が発見されました (ProNAS, 2009)。

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ハダカデバネズミは体長8~10cmほどであるが、げっ歯類に異例の長寿命(平均28年)、超ガン化耐性(長寿命にもかかわらず、自発的な腫瘍発生が起こらない)という非常に興味深い特徴を有する。*2

「ガン細胞は無限に分裂するが、ガンにならないハダカデバネズミの細胞は他の動物よりも早く分裂が停止する。」つまりこれこそがガン化耐性の本質ではないか?と研究グループは考えました。

しかし細胞中には何万種類もの分子があり、細胞分裂を早く停止させる実態を同定するのは簡単なことではありません。

おや?ハダカデバネズミ細胞の培養液の様子が…?

日々の実験を行ううちに、研究グループは一つ奇妙なことに気づきました。ハダカデバネズミの細胞を飼っている細胞培養液は、ヒトやマウスの細胞を飼っているそれよりも粘性が高いのです。

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生物から取り出した細胞はプラスチックで出来たディッシュの上に撒かれます。細胞を育てるためには細胞培養液 (栄養に富んだ液体) が必要です。細胞培養液の酸性度を確認するためにピンクに色付けされています。

細胞外にはコラーゲンやヒアルロン酸と言った細胞外マトリックスが分泌されてクッションの働きをすることが良く知られています。このことから「この特徴的な粘性は細胞外マトリックスであり、ハダカデバネズミのガン化耐性を作っているのでは?」と研究グループは考えました。

この仮説を検証したところ、細胞培養液にヒアルロン酸、しかも分子量が大きなものが分泌されていることが明らかになりました。

ハダカデバネズミは高分子量ヒアルロン酸を多く作るように進化している

培養液中だけでなく、ハダカデバネズミの体にも高分子量ヒアルロン酸が多いのでしょうか?これを調べたところ、様々な体組織で他種のげっ歯類よりも多く高分子量ヒアルロン酸が発現していることが分かりました。

高分子量ヒアルロン酸はHAS2という酵素が合成することが報告されています。実際ハダカデバネズミにはHAS2が特に多く発現しており、逆にヒアルロン酸分解酵素の活性は低いことが明らかになりました。

ではヒアルロン酸が実際にハダカデバネズミの高いガン化耐性を作り出しているのでしょうか?

高分子量ヒアルロン酸が少ないハダカデバネズミは腫瘍を形成する

ヒアルロン酸合成酵素であるHAS2が少ない状態、またヒアルロン酸分解酵素であるHYAL2が多い状態のそれぞれでハダカデバネズミに腫瘍の形成が見られました。

通常のハダカデバネズミは全く腫瘍ができないのにも関わらず、ヒアルロン酸が無くなると腫瘍が形成されるという結果は大きな驚きをもたらしました。

ではヒアルロン酸を増やすと他の動物でもガンにならなくなるのでしょうか?

ヒアルロン酸を摂取することでガンは防げる?

残念ながら論文中で実験的に検証されていないのでまだ答えがありません。しかし単純にヒアルロン酸を増やすだけじゃガン化は防げないだろうと多くの研究者が予想しています。

実際、ヒアルロン酸を分泌するにも関わらず細胞分裂が停止しないハダカデバネズミの変異体が存在するため、ヒアルロン酸だけで全てを語ることができないことが分かります。

さらに研究が進めば、きっと詳細な分子メカニズムが解明されるでしょう。

「長い地下トンネル内で暮らすために弾力が高い皮膚が必要であり、ヒアルロン酸が増えるよう進化した。それに伴って長寿命・ガン化耐性を獲得したのではないか」と筆者らは考察しています。

終わりに

ハダカデバネズミが持つ奇妙な性質の謎はまだほとんど解き明かされていません。いつの日か分子メカニズムが解明され、長寿命とガン化耐性を切望する人類にとって大きな光になると思われます。

日本でも慶応大学理化学研究所などの研究グループがハダカデバネズミの研究を行なっています。日本の研究者が素晴らしい発見をしてくれることを心から期待しています。

PS.新世界よりというSF小説にハダカデバネズミをモデルとしたバケネズミというキャラクターがいるようです (記事冒頭の絵)。読みたくなりました。

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

PS2.「ハダカデバネズミの長寿の理由は、酸化に強いタンパク質にある」という説が提唱されていますハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係 (岩波科学ライブラリー 生きもの)

ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係 (岩波科学ライブラリー 生きもの)

PS3.あれ、それは最後のfigでやってませんでしたっけ。あとで確認しますすいません。 id:semi_colon

PS4.身体の大きさと寿命の関係というものがありまして。 id:Mogutan303

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