「Harvard大が発見した新規ホルモンは糖尿病治療の光となるか?」Cellに出た論文が凄かった

糖尿病の患者さんは全世界に2億人以上もいると言われ、人類が克服すべき主要な病気の一つとされます。

2013年4月25日のCell誌に「ベータトロフィンという新規ホルモンが膵臓β細胞の増殖を促進する」と言う論文が発表されました。

2型糖尿病治療のブレイクスルーとして注目を浴びているこの論文、具体的に何が凄いのでしょうか?日本国内外の研究者の声も交えてまとめてみようと思います。


インスリンの補充で糖尿病を治療する

2型糖尿病はインスリン分泌低下と感受性低下の二つを原因とする糖尿病です。インスリンの分泌量が低下した分を外部から補充する方法で、糖尿病の治療が行われています。
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タンパク質であるインスリンは口から摂取すると胃腸で分解されるため皮下注射しなくてはなりません。また食事に合わせて一日複数回注射しなくてはいけないため、もっと患者さんの生活を楽にする治療方法はないかと世界中の科学者が日夜研究を行なっています。

体内でインスリンを増やす治療の研究

「体の中にあるインスリン産生細胞を増やせばインスリン注射をしなくてもいいのでは?」と言う発想のもと、様々な研究が行われてきました。

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しかし通常ヒトの体内でインスリンを産生しているβ細胞を増やすことは難しいため、その代わりに「幹細胞(ES細胞やiPS細胞)をインスリン産生細胞に分化させる」「別の体細胞をインスリン産生細胞にする」と言ったアプローチが取られてきましたが、臨床応用するには技術的に大きな壁がありました。

β細胞を増殖させるホルモン『betatrophin』の発見

筆者らは新しい糖尿病のモデルを開発し、肝臓で発現が上昇する遺伝子を網羅的に探索しました。候補遺伝子の中に分泌性タンパク質であるbetatrophinが含まれたため、このタンパク質の生理機能を追求しました。f:id:mdr52:20130426214621p:plain
驚くことにbetatrophinを増やすとβ細胞の数が特異的に増殖しました。さらにbetatrophinを増やすことで血糖値が減少したことから、このタンパク質を外から供給することで、インスリン注射よりも効果的に糖尿病を治療できる可能性が示唆されました。

糖尿病治療のブレイクスルーになり得る

インスリンを分泌する細胞を直接増やすことが出来ることを示したこの結果は、患者さんの苦痛を取り除くだけでなく、インスリン治療に変わる薬剤が作れる可能性を提唱します。

このインパクトの有る研究結果はHarvard大のホームページで大々的に紹介されています。研究グループによるプレゼンテーション動画も是非御覧ください。

国内外の研究者の反応

終わりに
ヒトの病気を研究するために、動物をモデルとした実験は必須です。それがあるからこそbetatrophinの発見のような医学的に重要性が高い研究が成されるのです。

ところでイタリアの精神医学の研究所に動物愛護団体が侵入して実験動物を逃したというニュースをご存知でしょうか?Nature誌にも大々的に取り上げられたこの事件、これによって精神医学に関する数年分の研究成果が泡となって失われました。

確かに生命はかけがえの無いものです。しかし無闇に動物実験を否定することは人類の発展を著しく遅らせることにも繋がります。これらのニュースを見て、糖尿病の治療に光がさしたことに喜ぶとともに、動物実験と研究者をめぐる問題についても心に留めておいて頂けると幸いです。

PS.更に詳しい解説が見たい人は以下の記事をオススメします。

PS2. この後の一連の研究により、ベータトロフィンはβ細胞の増殖を制御しないことが明らかにされました。
ベータトロフィンは糖尿病治療の光とはならなかった、しかし新たな光もある – アレ待チろまん

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「Harvard大が発見した新規ホルモンは糖尿病治療の光となるか?」Cellに出た論文が凄かった」への2件のフィードバック

  1. 素晴らしい紹介Tweetありがとうございました。ちなみに、映像では「2型糖尿病の患者は全世界に3億人ともいわれる」と紹介されていますので、当サイト冒頭の紹介もそれに揃えられては如何?

  2. コメントありがとうございます。
    論文のintroductionで「(2004年の時点で)世界の1.7億人が糖尿病だと推定され、2030年には3.6億人にも達するだろう」という記述があったので、(少なめに見積もって)2億人以上と書きました。

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