先日『電気泳動で脳を透明化する技術』という論文が話題になりました。しかし脳に存在する神経回路を解明するためには透明化手法だけでは不十分です。
脳全体の神経回路を包括的に調べるためにネットゲームで神経回路を繋いでいくという画期的なシステムが発表されました。
全ての神経接続を調べれば脳機能が分かる?
コンピューターと脳、どちらも情報を伝達することで機能を発揮します。このことから脳に存在する神経回路を解明すれば「脳がどうやって情報を処理しているか」分かるのではないかと研究者たちは考えています*1。

脳の中には1000億個を越える細胞が存在し、それが複雑にからみ合って存在します。さらにシナプス(神経細胞の繋ぎ目)は1つの神経細胞に8,000個以上もあり、またその大きさは1ミクロン程度と非常に小さな構造です*2。
一部の神経細胞だけにGFPを発現させた脳は細胞の観察を容易にします。しかし全ての神経回路を詳細に調べるためには、脳に存在するシナプス(神経接続)の網羅的な解析が必要です。
電子顕微鏡で神経回路を研究する
ナノメートルの分解能を持つ電子顕微鏡を用いれば神経回路を詳細に調べらることができます。『脳を固定し、染色し、切片にして、写真を撮る』これらの作業工程はロボットを使って自動化することが可能になりました。

しかしコンピューターを使って正確に画像を重ね合わせることは難しく、人間の目で一枚一枚画像を確認しながら3次元的な形態を再構築することが理想的です。
人間による正確な解析とコンピューターによる大規模解析を組み合わせることが出来ないかと、研究者は『クリアすると神経回路が解明できるネットゲーム』を開発しました*3。
電子顕微鏡画像の三次元再構築をゲームにした
『視覚系の神経細胞を繋いでいくからEyeWire』と名付けられたネットゲーム、まずはその紹介動画を見て下さい。
私たちの視覚がどうやって作られているか分かるかもしれない
脳機能は神経細胞同士の情報伝達によって発揮されます。視覚系、特に網膜は目の見え方と神経細胞の繋がりとの関係が良く分かっています。神経細胞同士の繋がりを解明出来れば「色や形が認識される仕組み」が更に分かるでしょう。
『私達が空き時間に塗り絵をすることで神経細胞ネットワークの解明が進み、ひいては人類が脳機能を理解する手助けになる』これはとてもステキなことだと思いませんか?
EyeWire楽しいよ!
EyeWireは「白黒の顕微鏡写真を見ながら三次元的な神経細胞を描き出す」ゲームです。説明は英語だけど操作は非常に簡単。なんと世界ランキングが公開されてるので、是非皆様には上位ランキングへ食い込んで欲しいものです!

1.色が塗られていない場所を左クリック
2.突起が完成する
3.間違ったら右クリックで取り消し
EyeWireは英語で作られているの滅茶苦茶簡単な説明記事を書いてみました。本当は日本語化パッチを当てたり出来るといいんですけど少し難しそうです。
EyeWireはヒト脳の大規模解析にも応用可能か
このEyeWireというネットゲームは国際的な共同研究により作られました。電子顕微鏡写真の撮影はマックスプランク研究所、ゲームの構築はMITでコンピューター神経科学を専攻するSebastian Seung教授らの研究室です。
まずは網膜を対象に行われたプロジェクト、成功すればそのままヒト脳の大規模解析に応用出来るのではないでしょうか。
Professor Sebastian Seung

Connectome: How the Brain’s Wiring Makes Us Who We Are
- 作者: Sebastian Seung
- 出版社/メーカー: Houghton Mifflin (T)
- 発売日: 2012/02/07
- メディア: ハードカバー
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PS2.教授が「この本を日本語訳で出すから買ってね!」っ言ってました(実話)