目, 心臓, 肝臓などといった組織を機能的に再生する技術の確立は人類の健康的な生活にとって非常に重要な課題です。
さて、先日インターネットで興味深いニュースを見ました。オタマジャクシの尻尾に機能的な目を作ることに成功した!という内容のようです。
こんなニュースが有った
・カラパイア:ミュータントオタマ誕生、オタマジャクシの尾に機能する目を移植することに成功(米研究)
マッドサイエンティスト臭がする非常に面白そうな研究ですね!ソースを見たところ外国でも記事にされており注目度が高いようです。
Journal of Experimental Biologyに出た原著論文
・Ectopic eyes outside the head in Xenopus tadpoles provide sensory data for light-mediated learning
実験内容
1.stage24のアフリカツメガエルの胚に眼球を移植したところ、通常の眼球と同様の速度で成長した
2.移植した眼球から伸びる神経は脊髄における特定の領域に到達した
3.第三の目だけをもつ(正常な目はない)オタマジャクシに光を当てる事でも正常なオタマジャクシと同様の反応をした
筆者らの主張
第三の目は正常な目と同様に正しく機能している
この論文への疑問
・第三の目で見るとどんな風に見えるの?
オタマジャクシの右目の情報は左脳で、左目の情報は右脳で処理します。しかしカエルに変態すると両方の目の左側を右脳で処理するように変化します。
さて、脊髄に繋がったこの目は何を見ているのでしょうか?
・『体を動かした=見えたから』って本当に言えるの?
「目玉が光を感じた」と「目玉が視覚として機能する」は全く意味が違います。
移植した目玉の神経は痛みを感じる経路に繋がっており、光を感じて痛がって動いてる可能性もあります。
・目が全くないオタマジャクシに光を当てたらどうなるの?
この実験方法と解析手法では、目がないオタマジャクシも正常なそれと同様の反応をするかもしれません。
・他の動物にも目玉って移植できるの?
イモリの卵を使った同様の移植実験が1800年代に報告されています。これらの実験は何れも発生段階(受精卵が分裂していく段階)で眼球またはその前駆体を移植しているので、大人の人間に目玉を移植して生着させるのは少し無理があるかもしれませんね。
疑問に応え続けることによって科学は発展していく
科学論文は発表された=間違いなく正しいではありません。
「NASAがヒ素で生きる生物を発見した!」というニュースは記憶に新しいと思いますが、超有名論文であるScienceに載ったのにも関わらず、その後の研究でどうやら間違っていたことが分かりました。
まず同じ実験結果が世界中で再現されることが必要であり、次にこの結果を更に発展させ、筆者らの主張が本当に正しいか検証することが求められます。
終わりに
皆さんはこの研究、今後どうなっていくと思いますか?
僕はこの分野にはあまり詳しくないので、専門家の方がいらっしゃいましたら御意見をいただけると幸いです。
眼球を身体の変なところに作る実験の先駆者ハンス・シュペーマン(1869~1941)

イモリの卵を使って発生過程を調べた人。2mmの卵細胞を髪の毛でゆるく縛るという超絶テクニックの持ち主。
1953年のノーベル生理学・医学賞の受賞者。高校生物の教科書に必ず載っています。(Wikipedia:ハンス・シュペーマン)
【おまけ2】
脚に目が出来たハエ
眼の形成に必須の遺伝子が同定され、その発現を制御することで異常な位置に眼が形成される事が知られています。
(ベーゼル大学 Walter J. Gehring博士の研究室より転載)
関連する記事
>第三の目は正常な目と同様に正しく機能している
論文ではここまで強い主張はされていないようです。紹介記事がオーバーに書いているだけのようですよ。
> 目が全くないオタマジャクシに光を当てたらどうなるの?
これは論文中で検討されており、学習できないことが示されています。一方で移植した眼だけがある場合には10%、通常の個体で40%が学習できるとのことで、手法と結論は十分に対応していると思われます。
正しく機能している
>確かに曖昧な表現ですね。推敲して訂正します。
目のないオタマジャクシに光を当てたらどうなるの?
>おっしゃる通りfig5ではそのようになっています。しかしfig3はネガコンがありません。二つのfigは解析内容が異なるので一様に解釈は出来ないことが気になりました。
個体ごとの動きを見た動画があれば一目で分かるのですが。
三つ目が通るや3x3EYESがもうそこまで来ているのですね。
哺乳類、特にヒトとは生物的に大きなギャップがあり、また倫理的な問題等もあるので、その未来は遠いでしょうね。