鮮やかな赤トンボは日本の秋の風物詩です。実は赤トンボ、赤いのは成熟した♂だけで、♀または未熟な♂は黄色です。
「なんでトンボの色が変わるの?」
それは誰もが抱くであろう素朴な疑問ですが、科学的な実体は解明されていない大きな謎でした。この体色変化機構の分子実体を日本の産業技術総合研究所が明らかにしました。
プレスリリース:赤トンボがどうして赤くなるのかその理由を解明
原著論文:Redox alters yello dragonflies into red (ProNAS, 2012)
性的成熟に伴って色が変わる生物は多い
子供が大人へと成長するに従って体の色が変わる現象は、哺乳類、爬虫類、鳥類、両生類、魚類、虫類などの様々な生物に共通して見られます。この体色変化は生物のセックスアピールとして働き、子孫を残すことに重要な現象だと考えられています。
これまで様々な動物の体色変化機構が明らかにされてきました。
a.色素を新たに合成して色が変わる
b.色素が体の一部に集まってきて色が変わる(メダカ、カエルなど)
c.エサを食べることによって色素を摂取して色が変わる(ザリガニなど甲殻類)
d.体内に共生する細菌によって色が変わる(アブラムシ)
赤トンボも上記のa-dのメカニズムを使って体色を変えるのでしょうか?それとも全く違った新しいメカニズムを利用しているのでしょうか?
オモクローム系色素が体色変化の分子実体だった
産業技術総合研究所のグループは、この謎に迫りました。赤トンボが持つ色素を解析すると、酸化状態では黄色、還元状態では赤色に変化する『オモクローム系色素』が存在することが分かりました。
では実際、♀の赤トンボ(黄色)に還元剤を注射すると、黄色→赤色に変わるのでしょうか?ビタミンC(還元剤)を注射すると、予想通り黄色いトンボが赤色に変化しました。
酸化-還元の遷移で体色が変化すると言うことは、赤くなって性的成熟をアピールするためだけでなく、酸化ストレスの軽減化に色素が関係しているのかもしれません。
生物って面白いですね!